2025.04.26
伝統的家屋の解体現場から見える、香川の住文化

伝統的家屋の解体現場から見える、香川の住文化
香川県の伝統的家屋が次々と姿を消していることをご存知でしょうか。古き良き日本家屋が解体される瞬間に立ち会うと、そこには数十年、時には百年以上の歴史と文化が刻まれていることに気づかされます。
私は建築解体の現場に立ち会う機会があり、讃岐の地に根付いた独特の住文化と職人技に触れてきました。伝統家屋の解体は単なる建物の撤去ではなく、地域の記憶を紡ぎ直す貴重な機会でもあります。
香川県特有の気候風土に適応した建築様式や、讃岐大工の卓越した技術は、現代の住宅では見ることができない価値を持っています。しかし、これらの文化遺産は記録されないまま失われつつあります。
この記事では、香川県の伝統的家屋の解体現場から発見された驚きの建築様式や、失われゆく讃岐の住まい文化、そして職人の技が刻まれた家屋の詳細についてお伝えします。
地域の文化や歴史に興味がある方、伝統建築を大切にしたいと考える方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
1. 【香川限定】伝統的家屋の解体で発見された驚きの建築様式とは
香川県の伝統的家屋の解体現場では、他の地域では見られない独特の建築様式や工法が数多く発見されています。特に注目すべきは「うだつ」と呼ばれる防火壁です。瓦葺き屋根の両端を高く持ち上げた特徴的な構造で、火事の延焼を防ぐだけでなく、財力の象徴として商家の間で競われていました。丸亀市や善通寺市の古い商店街では今でもその姿を見ることができます。
また、香川特有の「引き倒し工法」も解体現場で確認されています。これは強い地震に備え、柱と梁を特殊な方法で結合し、揺れを逃がす伝統技術です。四国特有の南海トラフ地震に対する先人の知恵が詰まっています。
さらに驚くべきは床下の「風呂敷構造」です。香川の伝統家屋では、床下全体に大きな一枚板を敷き詰め、その上に柱を立てる構造が見られます。瀬戸内の強い季節風から家を守り、湿気対策としても機能していました。さぬき市の解体現場では、樹齢300年を超える巨大なヒノキの一枚板が発見され、専門家を驚かせました。
香川県建築士会の調査によると、こうした伝統工法が施された家屋は県内でも年々減少しており、解体前の記録保存が急務となっています。讃岐の気候風土に適応した独自の住文化は、現代の住宅設計にも多くのヒントを与えてくれるはずです。
2. 失われゆく讃岐の住まい文化 – 解体現場から紐解く香川県の暮らしの変遷
香川県の伝統的な民家が次々と姿を消している。「この半年だけでも高松市内で5軒の古民家解体に立ち会いました」と語るのは地元の解体業者だ。讃岐の住まい文化には、瀬戸内の温暖な気候と石材の豊富さが色濃く反映されている。
特徴的なのは「讃岐平入り」と呼ばれる屋根構造だ。台風の強風から家を守るため、切妻屋根の妻側を道路に向けず、平側を前面に配置する工夫が施されている。解体現場では、このような先人の知恵と技術が刻まれた建築様式を目の当たりにする。
かつての住宅には、石の活用も随所に見られる。庭の「延段(のべだん)」と呼ばれる平らな石の通路や、「讃岐民家」の特徴である石垣を積んだ基礎部分などだ。香川県小豆島の樺川地区の民家では、今でも石積みの技術が残る集落を見ることができる。
解体される家屋の多くに共通するのが「土間」の広さだ。かつての讃岐の家では、醤油や味噌、讃岐うどんなどの製造を家内工業として行うことが多く、その作業場として土間が重要な役割を果たしていた。多度津町の古民家では、解体時に100年以上前の醤油樽が発見されたケースもある。
失われゆく伝統家屋だが、一部では保存・活用の動きも出てきている。丸亀市の「平賀源内記念館」のように、歴史的価値のある建物を保存し、観光資源として活用する例や、高松市仏生山の古民家カフェのように現代的な機能を持たせて再生する試みだ。
とはいえ、空き家となった古民家の多くは耐震性の問題や維持費の負担から解体を選択せざるを得ない現実がある。讃岐の住まい文化を次世代に伝える方法として、香川県建築士会では解体前の古民家の3D記録や、部材の一部を保存する取り組みも始まっている。
「職人の技が光る欄間や、手彫りの彫刻が施された柱など、見逃せない価値がある」と語るのは、県内で古民家再生を手がける建築家だ。失われゆく讃岐の住まい文化を目の前にして、私たちがすべきことは何なのか、今一度考える時期に来ているのかもしれない。
3. 職人の技が刻まれた柱と梁 – 伝統家屋解体から見える香川の住文化の真髄
香川県の伝統的家屋を解体する現場に立ち会うと、職人たちの息遣いが聞こえてくるようだ。特に柱と梁には、代々受け継がれてきた匠の技が息づいている。
讃岐の地で育った欅や檜が、丁寧に手刻みされた継手や仕口には、現代の機械加工では再現できない繊細さがある。古い民家の梁を見上げると、表面には「チョウナ」と呼ばれる道具で削った跡が波模様のように残っている。この模様は単なる装飾ではなく、木材の強度を高める工夫でもあった。
香川の伝統家屋で特徴的なのは、「讃岐型」と呼ばれる構造だ。強い季節風から家を守るため、太い主柱を用い、梁組みは複雑な格子状になっている。解体作業で梁を外していくと、その緻密な組み方が明らかになる。柱と梁の接合部は、釘を一切使わない「枘差し(ほぞさし)」の技法が用いられ、木材同士が見事に噛み合っている。
高松市の築150年を超える古民家解体現場では、大工の中村さんが梁の継手を指さし「こういう複雑な組み方ができる職人はもう少ないですよ」と語った。特に驚くのは、寸法の正確さだ。数十年、時には百年以上経っても、狂いがほとんどない。
また、柱の根元には「足固め石」と呼ばれる礎石を置き、湿気から木材を守る工夫も見られる。これは多雨多湿な瀬戸内の気候に対応した知恵だ。
解体された木材は、その質の良さから再利用されることも多い。丸亀市のリノベーション専門店「木蔵」では、古材を新しい建築に取り入れることで、伝統と現代をつなぐ試みを行っている。
香川の伝統家屋の柱と梁には、単なる構造材としての役割を超え、地域の歴史や文化、そして職人の魂が宿っている。解体は終わりではなく、次の時代への継承の始まりでもある。