瀬戸内の古民家解体秘話〜香川県の職人技が語る歴史との対話

# 瀬戸内の古民家解体秘話〜香川県の職人技が語る歴史との対話

穏やかな瀬戸内海を望む香川県。この地に数百年の歴史を刻んできた古民家たちは、静かに時を超えて今に残っています。しかし、老朽化や相続問題、あるいは新たな土地活用のために、解体という選択がなされることもあります。古民家の解体は単なる建物の取り壊しではなく、そこに刻まれた歴史との対話でもあるのです。

## 古民家が語る瀬戸内の歴史

香川県の古民家は、瀬戸内海の温暖な気候と地域の文化を反映した独特の建築様式を持っています。特に県西部の丸亀や善通寺周辺では、讃岐平野の豊かな農業を背景にした農家建築が多く見られます。一方、小豆島や東かがわ市などの沿岸部では、漁業や醤油醸造など地場産業と結びついた町家建築が特徴的です。

これらの古民家には、地元の職人たちの知恵と技術が凝縮されています。例えば「讃岐の家」として知られる建築様式では、強い日差しを遮るための深い軒や、海からの潮風に耐えるための工夫が随所に見られます。また、県内に多く分布する石の産地を活かした石垣や基礎工事も特徴のひとつです。

## 解体から見える職人の技と知恵

古民家の解体作業に取り組む香川県高松市の解体職人、田中さん（仮名）は語ります。

「古い家を解体すると、当時の大工さんの技術の高さに驚かされます。金具をほとんど使わず、木組みだけで何十年、何百年と建物を支えてきた技術は本当に素晴らしい。特に梁と柱の接合部分の複雑な組み方は、現代の技術でも簡単には真似できないものです」

例えば、讃岐地方の古民家に見られる「腰折れ屋根」と呼ばれる構造は、台風対策として発達したもので、強風を受け流す工夫が施されています。また、夏の強い日差しを遮りながらも、冬の陽光を取り込む軒の出具合も、現代の環境建築の知恵につながるものです。

## 解体の工程に見る歴史との対話

古民家の解体は、建てられた順序とはほぼ逆の手順で行われます。まず屋根瓦を丁寧に降ろし、次に内装材、そして構造材へと進みます。この過程で、何度も改修された痕跡や、時代ごとの建築材料の違いなどが見えてきます。

「江戸時代末期の建物を解体していたとき、明治期に増築された部分、大正期に改修された部分、そして昭和の修繕跡と、日本の近代化の流れをひとつの建物の中に見ることがありました」と田中さんは振り返ります。

時には、柱の中から古い手紙や硬貨、あるいは魔除けのための置物などが発見されることもあります。これらは単なる骨董品としての価値だけでなく、当時の人々の生活や信仰を伝える貴重な歴史資料でもあるのです。

## 古材の再生と循環の知恵

香川県の古民家解体で特筆すべきは、古材の再利用への取り組みです。特に香川県は古くから良質な木材が少ない地域だったため、建築材料を大切にする文化がありました。

「解体した古材は可能な限り再利用します。特に良質な梁材や柱材は、新たな建築や家具材料として生まれ変わります。古い欄間や建具も、伝統工芸品として価値が高いものです」と田中さんは説明します。

実際、高松市内のカフェや飲食店では、古民家から取り出された古材を内装に活用する例が増えています。丸亀市のリノベーション専門店「古家ラボ」では、解体された古民家の部材を使った新しい住空間の提案も行われています。

## 解体から見えてくる地域の変遷

古民家の解体現場からは、地域社会の変化も見えてきます。かつては多くの農家が点在していた讃岐平野も、現在は住宅地や商業地へと変わりつつあります。こうした中で行われる解体作業は、地域の記憶を継承する重要な機会でもあるのです。

「解体前には必ず建物の歴史を所有者から聞き取り、写真記録も残します。それは単に作業の記録ではなく、地域の記憶を残す作業でもあるんです」と田中さんは語ります。

実際、こうした記録は地域史研究や建築史研究の貴重な資料となっています。香川県立ミュージアムでは、県内の古民家に関する資料展示も行われており、解体現場で撮影された写真や発見された資料が活用されています。

## 伝統と革新の狭間で

古民家解体の現場では、伝統的な手法と現代技術の融合も見られます。例えば、環境への配慮から分別解体が法律で義務付けられるようになり、廃棄物の適正処理や資源リサイクルへの取り組みが強化されています。

「昔ながらの手作業による解体と、現代の環境基準や安全基準を両立させるのは簡単ではありません。でも、先人の知恵に敬意を払いながら、現代の技術も取り入れることで、より良い解体作業が可能になると思います」と田中さんは語ります。

香川県小豆島町では、古民家解体から得られた知見をもとに、耐震性を高めつつ伝統的な町並みを保全する取り組みも進められています。これは解体という「終わり」から、新たな「始まり」を創出する好例と言えるでしょう。

## 記憶をつなぐ解体作業

古民家の解体は、建物との別れを意味します。しかし同時に、そこに込められた歴史や記憶を次世代に継承する機会でもあるのです。

「解体前に、その家で育った方々が最後の記念写真を撮ったり、思い出を語り合ったりする姿をよく見かけます。私たちの仕事は